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就職活動

就職活動中。面接会場へ行くために商店街を進む俺が着ているのは、なんとリクルートスーツではなく普段着だ。あんな喪服みたいな物は御免だ、スーツなぞ道すがら適当に揃えてしまえば良かろう。そんなことを淡く考えながら進んでいる。

見落とすことがないようにしっかり見回しながら歩いているのだが、なかなかスーツを取り扱っている店は見つからない。いよいよ参って足を止めると、周囲には小汚い中華料理屋ばかりが軒を連ねていた。道行く人も少なく、照らす光源すらもまばらなのか、一帯はやけに薄暗い。腕時計で確認すると、時刻は面接のおよそ一時間半ほど前。内心の焦りを感じるが、こういう時こそ悠々たる行動にでた方がいいと俺は考える。スーツ屋を見つけたとしても結局昼飯は済ますことになるのだからと、目の前の中華麺屋の戸を横に滑らせた。

カウンター席に着いた俺が携帯を取りだし付近の紳士服屋を検索していると、三角巾をつけた店主らしき中年女性が巨大なラーメン器を俺の目前に差し出した。はて何も頼んでいないのにな、そう顔で訴えかけるが、店主はまぁ食べてみろといった様子でただ俺を見返すばかり。器の中に入っているものはどうも中華麺の一種であるらしいが、スープは小便を水で割ったような薄黄色の味気がなさそうな代物だし、具は雑多に並べられたタケノコとシイタケのみ。ひとつ口に運んでみたが、とても食べられる味はしていない。おおよそ察するに、変態な常連客に出しそびれたゲテモノを、からかい目的に一見さんである自分に充てたのだろう。なにか食べられる物をと追加で普通の中華麺を頼み、結局とくに満足のないまま会計を行う。レジ係に手渡す際に伝票を確認すると、なんとその小便ラーメンの名前が頼んだ品と共に注文欄に並んでいた。レジの料金表示枠が示した4000円近い金額にひどくゲンナリする。

やっとこそ見つけた中古紳士服屋を目前にして、こういう着る物は裾上げとかいろいろ施さないと役に立たないんじゃないかと俺はようやく気付く。しばらく店先で逡巡した挙句、俺は家へ帰ることにした。間に合うかどうかの瀬戸際で、自然と足は早足になる。

着替え終わった時にはもう面接までの猶予はごくわずか。先方にメールで遅刻する事を連絡しようかと迷うが、いやこれでもし間に合ったらマイナスポイントの痕跡だけをむざむざ相手に送ることになってしまうなと一歩を踏み出せない。商店街をすたこら進みながら、店に設けられた窓ガラスを横目で見てスーツのフィット具合を確認する。その出来に心強さを感じると共に、最初からこうしておけばよかったと後悔が生じた。

いつの間にか視界だけが俺の元を離れ、スーツを着た女性の面接官を映し出していた。面接官は時刻を確認し、携帯を取り出し、そしてメールを打ち始める。「弊社の選考よりも大事な用事がありましたようで――、そちらの方に専念していただいて――」。視界は戻り、そのメールを俺が受け取る。何とも皮肉めいた文面だなぁいやでも相応のことをしたし、寝坊でもしたと思っているのだろうなぁ。いろいろ考えるが、まぁ特に行きたい会社じゃないしと思考に無理やりケリをつける。
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