集落

小説調の夢。
文章を読む俺と、それによって浮かんだイメージを見ている俺が重なっている。
舞台はどこかの集落。
街に出て廃品を集めたり、はたまた通りかかった人間の所持品を鹵獲して辛うじて生きながらえている。そんな負に満ちた集落。
もちろん、通りかかった者すべてに強襲を仕掛けるわけではない。
世間一般で言われる高いステータス――例えば職種、学歴――を持つ人間は、仲間として引き込み、一族存続の要とするのだ。
退屈なストーリーは、自らを東京大学卒だと語る若い男の来訪により一変する。
周囲の歓迎に気をよくしているように見えた男が、ある家屋を見るやいなや声を冷淡なものにし、集落の政府への引き渡しを旨とする宣言を始めたのである。
その家屋の基礎部分として使われていた車が、盗品であると見抜かれてしまったためだった。
今までにない危機の訪れに動揺が走るシーンの中、いつの間にか俺は小説の中にいる。
集落の一員としてそこにいる俺はその若い男が水産庁の人間であるということを知っていて、まあ多分口止めとして皆に殺されてしまうのだろうなぁとボンヤリ考えている。
スポンサーサイト

冷凍工場

ここまでついて来てくれた友人に礼をいい、二階の冷凍工場を目指して階段を下っていく。
踊り場をいくつも過ぎてようやくついた二階には、工場から漏れてくる冷気と共に男女入り混じった話し声が溢れている。
見ると、工場の入り口に待機所として設けられたらしき長テーブルに、俺の同期となる集団がムカデの足のように揃って腰掛けている。ザッと見た限り人数は30人ほど。オープンスタッフなので、人数だけは多いのだ。
わざわざ肩身が狭い思いをしなければならないことに内心苛つきながら、探し出した空席に腰かける。
すると、ズボンの股まわりがグッショリと濡れていることに気がついた。
テーブルの上にはティッシュ箱があったが、箇所が箇所なだけにおおっぴらにやるべきではないと判断して腕は伸ばさない。
手を覆い被せながら、責任者へ、すこしでも多くの乾燥時間を設けてくれることを祈り続ける。

お茶さんの夢

やけに騒がしい寺だなぁと思って縁側の障子を開けると、暗い座敷の中で妙な集団が集会をひらいていた。
皆がみな頭を上げ、正面に取り付けられたスクリーンの光に目をやっている。そのスクリーンの邪魔にならない所には、ただ一人集団から離れてパソコンを操作しているリーダーらしき人影。
その影を見た瞬間、お茶さんだ、と思った。あいつスカイプのアイコンはあんなに可愛いのに――。
スクリーンに映し出されている画面は、過去に行われた集会の録画ビデオらしい。準備が整うまでの余興だろう。
しばらくそれを眺めていると、パソコンから顔をあげたお茶さんが集団の方に手で合図を送った。同時にスクリーンが暗転し、ジジジといった音と共に葬儀場の映像が映し出される。
遺影の目を通して見ているようなアングルの中で、喪服姿の男女が神妙な顔で正座していた。中には泣いている人もいて、懸命に嘆きの具合を座敷の中に響かせている。
そんな中、慎重に鍵をかけるようなキーボードを叩く音がした。その瞬間、スクリーンの中の神妙な顔が集会に参加している奴らの顔面に差し替わる。
どこかに仕掛けられたカメラ及びプログラムが、それぞれの顔の認識・切り抜き・合成を瞬時に行ったのだろう。
まいったなぁと思う。
こんな配信は考えつきもしなかったし、実現も一人では到底できない。遺影として嫌われ者の写真を挙げれば、盛り上がらないことはまずないだろう。
そんな風にボンヤリとお茶さんの手際に感心していると、集団の最後尾にいた杉村太蔵と目があった。
すっかり忘れていたが、俺は部外者なのだ。しかも、怪しげな集団の、だ。
つい口走った「いやぼくはカメラいいです」なんて馬鹿なセリフを自分で聞きながら、これから身に降りかかることの顛末を悟ってしまう。
そして、捕まった俺は、KBTITにムチでしばかれることとなる。
顔を庇おうとして被せた腕に走った痛みは、思ったよりも軽かった。しかし必死に痛がるフリをして、一刻も早くの開放を乞う。

行列

若者の行列。
それの部品となって、腸みたいに狭い通路を、せっつかれているような気分で歩いている。
通路のレーンの向こうには、この社会行事の目的であるカラフルな洋服たち。
しかし、俺の視線は、床に無数に転がる、飴玉みたいな色をしたマシュマロ状のイスを追っている。
それに腰掛けたいなぁと思う。が、周りの誰もそんなことはしないから、俺も大人しく足だけを動かしている。
せめて時間を早めようと考えごとをしている脳に、同期生が好みの服を見つけるたびに発するキイキイ声が槍のように刺さってくる。
最初はひそひそ声が大半だったのに――、こうなるともう、来たくなかったなぁとただただゲンナリするしかない。
ため息をすると、気づいてしまった。これは一度あったことなのだ。小さな差異こそ確かに見られるが、それを跳ね返すような強い確信が頭にある。
だから、この部屋を抜けると保育園に出ることもわかっている。そして実際にそうなった。
室内にはオモチャが散乱していて、その中をまばらになった先程の若者たちが仲間が求めてアタフタと歩き回っている。
そんな忙しない様子の中、保母さんだけが散乱したオモチャと共に部屋の真ん中に悠然と座っていた。
彼女へ、若者の一人が、絵本を差し出す。
その瞬間に、激怒する保母さんの映像が頭に浮かんだ。彼女は絵本嫌いなのだ。これも一度あったこと。
しかし聞こえてきたのは、予期せぬ朗らかな声。
不思議に思って近づくと、彼女が俺の方に顔を向けて開口一番。「この人みたいだねぇ」
なにかと思ってふと見ると、彼女の手には「五体不満足」が握られている。どうやら俺が乙武さんに似ていると言いたいらしい。
言われてみれば、と思う。

スイミング

スイミングスクールに行けと母親にせかされる。
小学校の時に辞めたのだとすっかり思っていたが、あれは俺の勘違いだったらしい。あまりにも話が突然すぎるが。
それが不満で棒立ちのまま黙っていると、痺れを切らした母親が代わりに準備をし始めた。
目が合ったら何を言われるかわからないので床付近に視線を移す。すると、当時のゴーグルが俺の近くに転がっていた。
さっそく拾って付けてみる。するとなぜか、ゴーグルを付けている俺自身の顔が目に飛び込んできた。
これ、正面からだとサングラスっぽく見えるんだな。そんなことを思う。