スクライド的な夢

そいつが化けた姿は、巨大なナナフシ状の怪物。枝分かれしたいくつもの細い足が生えている胴体の先端には、マネキン人形のようなノッペリした大きな頭が何かの果実みたいにくっついている。
その筋肉質な躯体は、俺が今までみたアルターの中で恐らく一番大きなものだった。思わず「でっけぇ、かっけぇ」と呟きながら、拳にグッと力を入れる。
向こうから来る様子はなかったので、俺から先手をかけた。一番最寄りの灰色の足に向かって、加速した俺の体を突進させる。
体こそ大きいが、その細さのせいでバランスは悪いらしい。質量自体も大したことがない。勢いはそのままに、幾棟ものビルを巻き込み倒壊させながらそいつの体にスピードを乗せていく。
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送迎バス

スクラップ屋に向かう送迎バス。定年をとうに過ぎたような爺さん婆さんが席を埋めてる中、入り口近くの空いてるシートに腰掛ける。
どうやら発車まではまだしばらく時間があるらしい。それで景気づけに、ウィスキーの水割りを一杯飲むことにした。
握る手にすっぽりと収まっているコップを満たす液体は透明で、スナップを利かせると、濡れた樹木の甘い香りとアルコールの刺激が鼻の中を抜けていった。
こんな悪いことをしてもいいのかしらと、職場に対して少し申し訳なくなる。しかしこの程度の量なら、まずバレることはない筈でもあるのだ。
飲むとまず、口の中へ流れたぬるいトロみに眉がピクっとなった。そして、食道へと下っていく果実が腐ったような甘ったるさと、その匂いにやられた喉がごぎゅごぎゅと自らを締め付け、異物を押し上げていく感触。
バスの中にトイレが設けられていることは知っていたが、間に合わなかった。車内にびちびちと響くデカい水音。昼飯と水割りと胃液とが混ざりあったエグい味が、舌の上を我が物顔で流れていく。
爺さん婆さんがなにか声をあげていたが、そんなことにかまっている暇などなかった。しばらく吐き続け、収まったと見えると即座に備え付けられたトイレへ足を向かわせる。衰弱とゲロのせいで、ドアノブが中々回せない。
狭い個室内の和式便器はひどく汚れていたが、構わず顔を近づけた。開けた口に吸い込まれていくムワっとした臭気。それで確かにえずきを覚えたのだが、なぜだか知らないが肝心な物がなかなか出てこない。どうにかならないか必死に喉をゴゲゴゲ鳴らしていると、ふと、肛門の辺りに疼く張った紐のような緊張に気がついた。
理由は分からないが、こんなゲロにまみれた手では用を足すのに分が悪いと思った。バスの車外にある、水やりホースを扱う際に使われるような小さな水道場。そこで一旦手を洗おうと、てんやわんやな車内を去る。唖然とした表情で俺を見つめる爺さん婆さんたち。
まず腹の辺りに付着したふやけた諸々を落とし、そして腕と靴を水で拭う。ドアノブは、先ほど汚したものとは別の右上に小さく生えているスペアを握った。
――済ませた用に、ついつい息をホッとつかせる。この時にはもう、吐き気もすっかり鳴りを潜めていた。少なくとも帰り道は綺麗なズボンで帰れるなと、ひとまず安心する。

駅と飲食店

立った拍子にスポーツタオルと上着3つが車内に散らばり危うく乗り過ごしてしまいそうになるが、なんとかドアを抜けてホームに立つ。大勢の人が目の前を行き交っている。特にごった返しているのはエスカレーターの乗り込み口付近。手荷物の多さも相まって、なんだか不安になる。

しばらく流れに身を任せ、最後は一歩踏み出す。邪魔にならない場所で手荷物が欠けていないか確かめてみると、タオルがない。参ったなぁと人混みが落ち着くのを待っていると、エスカレーターを上がってきた女性がタオルを差し出してくれた。礼をいい、二回目の確認。3つの内の1つ、上着がないことに気がついた。

上着の居場所を探るためにホームを見下ろす。客の姿はまばらになっているが、その代わりに青い制服の駅員が点々となって灰色の床を歩きまわっていた。業務用の掃除機のような見慣れない機械を扱う者もいる。

横を見ると、エスカレーターに乗る人々の列はまだまだ続いていた。しかしやけに皆は俯いている。見ると、知的障害者らしき人が数字をぶつぶつと唱えながらニタニタしていた。気まずそうなその場の雰囲気が、ある程度離れているこっちにまで伝わってくる。揺れるリュックに迷惑そうにしていたオヤジが「ここは数字を数える場所じゃないんだよ」と怒鳴ったのも無理はない。

駅を出てすこし歩き、適当なベンチに腰掛ける。そして身だしなみを整えようとするが、なんせ全部合わせて五枚も服を着てるだけあってなかなかいい感じにならない。それで悪戦苦闘していると、目の前にある飲食店の入り口で呼び込みをしている女性が目についた。ホステスみたいな格好をしている。若い男を言葉巧みに誘い、店の中に通していた。

そのホステス風がこちらに話しかけてきた。「きみ、ドラえもん?」とのこと。俺が「みたいなもの」と返すと笑い、「ひとりなの?」と更に訊いてくる。「ドラえもんでも人間でもないから、一人」と返す。感心したような顔。

どうやらここは、混雑時、客を待たせるためにあるベンチらしい。そのため、ここで着替えるのはやめた方がいいよとのこと。「監視カメラもあるし」とそれを指で示す。調子に乗った俺がそれのレンズに向かっておどけると、入り口から恰幅がいいおばさんが大勢ドタドタと現れた。開口一番に出て行けと叫ばれ、そして始まったのは「たしかにここも客は少ないし――」という回想シーン。

ここの主要客層である家族連れが同じ地域内にあるからあげ屋に奪われてしまったのが、ここ最近の売上低下の原因らしい。しんみりとした雰囲気になったが、おばさん達――特に社長――の怒りは収まらない。去るための身支度のはずみで落としたタオルを拾おうとすると「やめろ」と叫ばれ、帰りしなには「自分で働いて金も稼がず、今まであった一番の偉い人間が学校の先生のくせに」とキャンキャン言われた。「地位や金がすべてなんですか」と語尾がつまりながらも返すと社長は一瞬はっとしたような顔をしたが、またすぐにもとに戻って顔を真っ赤にする。

インドにて

用事を済ませ、宿に戻ろうと思ったが、前方にある市場の騒がしさに興味が湧いた。
遠くに見える巨大な門の口から覗くのは、多くの人と車、そしてそれの背景として蠢いている黒く大きな肉の壁のようなもの。
ガイドの女性は、それを、「象が暑さをしのぐための気持ちいい戦い」と説明してくれた。
門の口の中、ようやくの日陰に一息つきながらそれを眺めて感心する。
それは、象の数珠つなぎ。
長い鼻が、前を進む象のケツにめり込むようにしてぶっ挿さっている。そして、そいつのケツにも勿論長い鼻。
さすがインドだなぁと感心する。足元に立つと、丘のような巨体の背中に乗っかっている小屋はもう見上げてでしか見ることができない。そのスケールにくらくらする。
日陰が待つ門へと戻ると、暗い通路の横脇に店のようなものがあることに気がついた。
フリーマーケットの様に簡易的な作り。店主はいない。一番手に取りやすい場所にある目玉商品は、パーツごとに分類され透明な袋に入れられたレゴブロック。横の棚には、進研ゼミの付録らしき計算ゲーム機。
どうやらここは、一応の日本ショップであるらしい。
しばらく品揃えの程度を確かめていると、突然背中からやってきた片言のイラッシャイにびくっとなった。
振り向けば、そこには店主らしきインド人。ニコッとして、そしてさっそく口を動かし始める。同時に、計算ゲーム機の横に積み重ねられたプロジェクターを一つ持ち上げ、腕に抱えながらホコリを払い除けだした。
付け込まれるのは勘弁だと、体全体で店すべてを指し示しつつ「全部ノー」と繰り返す。それに対しては店主は、「オッケーオッケー」と少ししょげた反応。
その様子に、「全部ノーだけど――」と、改めて語尾を伸ばす俺。店主がこちらを見つめる。しかし、結局いい言葉が見つからず、「頑張ってね」に着地した。笑い出す店主。通り過ぎざまに背中をパシッと軽く叩かれる。
店の反対側のスペースには梯子があって、店主はそこから外に出るようだ。その背中を目で追いながら、悪い奴ではないんだろうなぁと考える。そして、もう少し一緒にいてみたくもなってしまう。
店主の顔が上から差し込む光で照らされるぐらいになって、やっといいセリフが頭に浮かんだ。
「他に、店はやってないんですか」と、梯子の元に駆け寄って、見上げて、合図して、一声かける。

インドの街を店主の後ろに着きながら歩く。
時折、頭部と関節部に黒い鎧を装着した、カブトムシみたいな格好のインドの兵隊達とすれ違う。なぜか晒されている腹筋は、揃いも揃ってモナカみたいにパッキリと鍛えられている。
その威圧感に「めっちゃ緊張するなぁ」と呟くと、「かなーりドキドキね」と店主。気が付くと、そろそろすっかり街のはずれだ。
港の波止場のような細長いコンクリートの上に俺たちはいた。その下は、海ではなく砂。
店主に続いて、俺もそこへ飛び降りた。しかし、岩の影から白いものがこちらに向かって駆けてきたので、慌てて元の場所へよじ登る。
立ち上がりと共に正面を背後へ返すと、その光景にギョッとなった。俺が先ほど降り立ったちょうどその場所で、高い壁を乗り越えるべく跳ね続ける、白い毛に覆われた見たこともない生き物。その跳躍が頂点を迎えるたびに、キツネザルのような顔と鋭い牙がちらちら見える。
「パンナーだ」と叫ぶ店主。続くのは、気をつけろという忠告。どうすればいいのか一瞬迷う。
そして、店主の元にさえ辿り着けばあとはどうにかなるだろうと踏んだ俺は、タイミングをあわせ、パンナーの頭上を走り幅跳びの要領で飛び越えた。しかし、地面に着地してもなお店主は動かない。大きな獣が四つ足をドタドタと動かして駆けてくる砂音がした。パンナーに追いかけられる死に物狂いの俺を見て、店主は遠くから「心配になってきたよ」と苦笑する。

いつの間にか、俺はパンナーのwikipediaを見ている。やはりキツネザルの一種らしい。前書きが長く、生態や獰猛性など、本旨まで中々辿り着けない。

太郎PUBG

パラシュートの落下地点を人が寄り付かない過疎地に定めたと思ったら、同じ考えの奴がいたといういつものパターン。
太郎のPUBGはしょっちゅうこれだなぁと、キーボードに手を置きながら画面を見つめている。
いろいろ入れるドアはあったのに、モニター内の二人は奇しくも同じ家に侵入したようだ。そしてもちろん、始まるのは銃を旗に見立てたビーチ・フラッグス。
広い室内。二人の距離の中点に位置するテーブル。その上に乗っているライフルへ向かって二人が駆け出した。
先にメニューを開いたのは太郎。銃弾も拾い、バカみたいな声をあげながらメニューを閉じる。しかし、メニューの晴れた先にあったのは構えた銃をこちらに向ける敵の立ち姿。
銃は一丁だけではなかったようで、太郎はとっさに対応の銃弾を奪ってやろうとメニューを開くが時既に遅し。「んあ~」と呆ける太郎に向けて俺は「家の、中に、銃が、あでゅ」とキーボードを叩く。